「くも、って?」
「幻影旅団の俗称さ」
「げんえんりょだんって?」
まずそこからか。何やらダイエット集団のような名前になっていたがそれは別に訂正せず、ヒソカは歩きながら二人に説明する。
「盗賊団なんだけどね、彼らはとっても強いんだよ」
「ヒソカよりも?」
「……どうだろうねぇ。闘ってみたいんだけど、仲間同士での戦闘はダメなんだよ」
ある程度の金稼ぎは出来たので、ヒソカは二ヶ月程で双子を連れて天空闘技場を後にした。これで当分生活には困らないだろう。女の子の生活にどれだけお金が掛かるのかは解らないヒソカではあったが、幸いにして彼女達にはそれほど物欲は無かった。自分と同じように、ただただ強い相手と戦いたい。遊んで欲しい、という欲がとてつもなく大きな割合を占めていて、この子達なら、あの団長のお眼鏡に適うやもと思ったのである。そしてこれからどこへ行くの? と不思議そうな二人に、蜘蛛に会いに行こうと告げたのだ。
「これから向かうのは、そのアジトさ」
「隠れ家!」
「かっこいい!」
悪逆非道の盗賊集団だと言うのに、会うのを楽しみだととは言う。最初にイルミについてゾルディック家で半年間過ごしたこともそうだが、本当に図太い神経だと思う。だが問題は団長ではなく、団員の中でも短気なフェイタンやフィンクスくらいだろうか。問答無用で攻撃を仕掛けられたら面倒だ。まあ、殺させる気はヒソカには毛頭無いのだが。
「オイ、なんだヒソカ、そのガキどもは」
「僕の隠し子」
「嘘つけよ全然似てねぇじゃねぇか」
突っ込むところはそこなのか。やはりというべきか、ヒソカが連れて来た二人の少女に団員全員が驚きを顔に浮かべたが、まず最初に声を上げたのはフィンクスであった。
「ねェ、団長?」
「なんだ」
団長と呼ばれた黒い髪とコートの男――クロロは、ヒソカを見た。
「次の仕事、彼女達を同行させたいんだけど」
「……はあ?」
反応したのはサムライのノブナガで、他の団員は事の成り行きを見守っていた。ヒソカの言動が突拍子も無いのはいつものことであったが、今回は輪をかけて読めない。クロロは表情を変えなかったが、ヒソカの傍らに佇む二人の娘を、じっと品定めするかのように見つめた。
「お前が言うのだから、使えるのだろうな」
「うん、結構イイと思うよ」
ほら、挨拶しなよ。
ヒソカに促されて、ずっと黙っていた双子が口を開く。団員達は、ヒソカに無理やり連れてこられた二人の少女が、団員達のオーラに怯えて声も出ないものと思っていたのだが、彼女らの口から飛び出たのは、全く真逆の反応であった。
「です!」
「です!」
宜しくお願いします、と頭を下げた二人を見下ろしながら、ヒソカが補足する。
「彼女達はあのゾルディック家で暗殺を学んで、僕が天空闘技場で念を教えたんだよ」
「!」
目を見開く団員達に、ヒソカが満悦そうな表情を浮かべる。シャルナークがへえ、と感嘆の声を上げた。
「それは……面白いな」
「だろう? それにとってもカワイイんだ」
ヒソカのカワイイは、イコール強い、もしくは強くなりそうだということだ。出会った時から変わらない奇術師のその言動に、そしてそんなヒソカが連れて来た少女に、クロロは大いに興味が沸いたのだ。あの暗殺一家として名高いゾルディック家のしかも長子が気に入って、ヒソカが発展途上と言うその娘達が抱く、自分達と同じような底知れない闇に。
「いいだろう。次の仕事、二人の同行を許そう」
「わーい!」
「やったー!」
正直、未だ幻影旅団という組織に入って新参者であるヒソカをよく理解できていない団員達が、更にその得体の知れないヒソカが連れて来た身元不明な少女達を信用するなどということが出来るはずもない。それでも幻影旅団を前に臆することなく笑顔を浮かべる二人を、クロロと同じように彼らが興味を持ったのは間違いのないことであった。
とが請け負ったのは、警備員の一掃だった。今回奪うのは、団長クロロが常々興味を持っていた本で、歴史あるそれは展示館で厳重に保管されているのだとか。本は読むためのもので、著者もそう望んでいるだろう。ならば自分が手元に置いて、存分に愛でてやろう。そう思って、クロロは暇な団員に声をかけていた。
ヒソカは二年前に団長と戦うため蜘蛛に入団しており、その機会を伺っていた。今回もその為に出席したのだったが、イルミから託されてしまった双子と天空闘技場に思いのほか長く入り浸ってしまい、集合に遅れてしまったのである。しかし当初、早めに行ってクロロの隙を狙おうと目論んでいたヒソカだったが、それは二人の少女を団員にお披露目しようと言う主旨に変わった。
ヒソカは双子の保護者ということで、同じく入り口の掃除を任された。不服そうだったが、今回は特に難しそうな――否、楽しそうな仕事ではない。
「僕はここで見物していようかな?」
「いいの? ヒソカ」
「遊ばないの?」
相手は別に念を持たない、ただ銃を構えるしかない警官連中だ。自分が出るまでもない、とヒソカは屋根の上から警備員を見下ろした。二人だけでヤってごらん、と。
「この仕事が成功すれば、きっと団長もキミ達のことを認めると思うんだ」
「じゃあ頑張るね!」
「たくさん殺してくるね!」
まるで「遊びに行ってくる!」と外に飛び出していく子供の如く屋根から飛び降りた少女達。急に現れた曲者に、しかもそれが少女であり、警備員の男達は驚きを隠せずにいた。お嬢ちゃんたち、どこから来たんだい? 警備員の一人がに近づくと、その首を静かにが切り落とした。
「!?」
何が起きたか解るはずもなく、首の無くなった男の身体はぐらりと傾き、地に伏した。見ていた他の警官に動揺が広がる。しかし二人の少女は全く躊躇なく、次々と警備員の身体にナイフを突き刺していくのだった。
「な、なんだこの子供は……ッ!!」
賊が幼い少女であるからといって警官も黙って見ているわけにはいかない。当然騒ぎに駆けつけた者もいるが、応援を要請する間もなく次々と倒れていく。
「くっくっく……イイねぇ、やっぱりイイよ君達は……」
屋根の上で、淡々と男達を殺す二人の少女を見ながら、ヒソカは心の底から嬉しそうに笑った。
そうして宝を手に入れて戻ってきたクロロが目にしたのは、首の取れた男達が垂れ流したであろう血だまりの中心で、返り血を拭いながら恍惚とした表情で朱に染まった短剣を見つめる二人の少女だった。
「……これは凄いな」
クロロがそう口にするのも無理は無い。幻影旅団の団員にとっては簡単な仕事でも、彼女らは念を覚えてまだ間もないたった十歳の少女である。あまりの凄惨さに、あやうく持っていた本を血の池に落としてしまうところだった。
「ヒソカ、お前の言うとおりだな。あの娘達は、お前と同じくらいには狂っている」
「うーん、褒め言葉として受け取っておくよ」
「……また、いつでも連れてくるといい。今回不在だった連中には、俺から話を通しておこう」
打ち上げでは、少女達の狂いっぷりに感心したメンバー達はとても友好的だった。その存在を快く思っていなかったはずのフィンクスとフェイタンが、お菓子やジュースを勧めるのだから尚のこと。とは幻影旅団という組織に受け入れられ、ヒソカが参加する際には一緒に作戦に加わることとなった。無論、彼女達の年齢も考慮し簡単な仕事しか任せられなかったが、それでも与えられた仕事は確実にこなす双子に、後に団員は「ヒソカ以上の働きだ」と口を揃えた。