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    「ねぇっ! ねぇ、ヒソカどこ行くの!?」
    「ハンター試験を受けに行くんだよ」
    「何それ、あたし達も行く!!」
    「ダメだよ、君達はまた受けられない」

     年齢制限があるから、と言われて二人は寂しげに項垂れる。そんな彼女達の肩に手を置いたのは、ヒソカが二人を託したマチだった。

    「まあ、今年受かる保証はないし。落ちたら思いっきり笑ってやればいいのよ。死ぬことはないとおもうけとね」
    「ひどいなぁ」

     僕がいない間、二人を頼んだよ。なんて、一端の保護者のような口ぶりに、どの口がそれを言うのだと呆れてしまう。そもそも、ふらりとアジトにやってきては双子を置いていつも勝手にどこかへ行ってしまうのだから、保護者としての責任を放棄しているとしか思えない。幸いにしてもも根は素直ないい子達だ。ヒソカがいない時でも他団員達の言いつけをきちんと守るので、それほど迷惑に思うメンバーはいないのだけれど。

    「おいで、二人とも。アタシが遊んであげるから」
    「わーい! マチ大好き!」
    「ヒソカ行ってらっしゃい!」

     コロリと態度を変え、マチと手を繋ぎながら逆の手を振る少女達。少し羨ましくて寂しいと思いつつ、ヒソカはハンター試験に赴いた。



    「二人はしたいこととかないの?」
    「したいこと?」

     マチに連れられてアジトの中に戻ると、女性団員のパクノダがいた。入り口で少女らの声は響いていたので事の経緯は理解していたが、ふと疑問に思ったのだ。
     とは顔を見合わせて、小さく願いを口にする。

    「字を教えて?」
    「本が読みたいの」

     幼少の頃に実親から捨てられて、殺人鬼に拾われて戦う術のみ叩き込まれた彼女達は、言葉は理解できても文字の読み書きや一般教養などが身についていない。幻影旅団と言えど普段は一般人に混じり暮らしているマチやパクノダは、気分転換にと二人を連れ出してくれることが度々あったのだが、その頃から感じていたのだろう。前にシズクが本を貸してくれようとして、読めないからと残念そうに二人が断っていたのも記憶に新しい。

    「そうね、わかったわ」
    「柄じゃないけど……これも慈善事業か」

     それから、ヒソカが不在の間は代わる代わる団員達がやってきて双子に勉強を教えることになった。しばらくして、本屋から学童向けの絵本や学習本が軒並み盗まれたとのニュースが流れることとなった。
     それから一月ほど経った頃。

    「だんちょー」

     これなんて読むの? と、本を手に尋ねるのは双子の妹。姉のはマチと裁縫のレッスン中だ。自身も本を読んでいたクロロは顔を上げ、の指すページに目をやる。文字の読み方と、言葉の意味を教えてやれば彼女はぱっと明るい表情で嬉しそうに笑った。

    「ありがとうっ!!」
    「……」
    「珍しいね。だんちょー、口元緩んでる」

     の口調を真似てクロロの名前を呼んだシャルナークは、いいものを見たと笑っていた。

    「筋がいい。若いから飲み込みも早い。あいつらが色々世話を焼きたくなるのも頷けるな」

     パタパタと背を向けて戻って行くの後姿を見ながらそう言うと、クロロは読みかけの本に視線を戻す。そんな頭から楽しそうな双子に視線をうつしたシャルナークは、彼女達に勉強を乞われる他の団員達が羨ましいと思った。シャルナークが教えられるのはパソコンくらいなものだったが、現在二人には興味のない分野らしく、全く相手にされないのである。暇つぶしの相手も、飽きられてしまったらしい。

    「暇だなあ」

     最近は目立った活動もしておらず、今は「慈善事業」と称して、とという二人の少女を見守ることが活動内容となりつつあるのだった。
     数ヶ月後、ヒソカが戻ってきた。予想よりもずっと早いご帰還である。

    「おかえりヒソカ!」
    「試験、どうだった!?」

     姿が見えるなりヒソカに飛びつく二人。相変わらず、何故この奇術師に懐いているのか理解に苦しむ団員の前で、「ただいま」と、とびきり甘い声で答えるヒソカ。それから続けて、試験の結果を口にする。

    「……うん、落ちちゃったよ」

     理由が理由だけにそれほど落ち込んでいるわけではなかったが、それでも可愛いこの少女達に慰めてもらえると思ったヒソカは、

    「うわダッサ」
    「ざまぁ」

     なんて指をさされたのは想定外すぎて、さすがに石のように固まっていた。恐らく仕込んだのはフィンクスとノブナガ辺りだろう。笑いを押し殺している様子から、マチも絡んでいそうだ。

    「この子達を置いてった罰だね」

     すっかり団員達に気に入られた様子の少女達は、本気で落ち込むヒソカを見て未だケタケタと笑っていた。

    to be continued...





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