ドォン。突如、鳴り響いた爆音に肩がビクリと上下する。二度、三度、次第に大きく近づいてくる音。ゴンとキルアに何かあったのか、ノブナガが何か始めたのか。そんな風に窓際を背に警戒していると、壁の破壊とともにゴンが部屋に飛び込んできた。
「……ッ!!」
「ゴン!?」
壁を蹴破り、ノブナガから逃げてきたのか。相変わらず型破りな少年に、しかしそれでも安堵する。これで彼らがクロロに会わずに済むのだから。
「今のうちにも逃げよう! 俺達と、一緒に行こうよ」
今度こそと、ゴンに手を引かれるが、は頑なに動こうとはしなかった。やがてノブナガを撒いたキルアもやってきて、二人の様子を見守る。
「ごめんね。本当に、行けないの」
「どうして!?」
「この首飾りは念で作られていて、術者に私の居場所がわかってしまう。外に出ても、必ず追っ手がくるから」
だから、行けない。
全てを話してしまえば結果的に彼がどういう行動に出るかわかっていたから、続けて先手を打つ。
「今はまだ逃げられないけれど、私はまだ諦めたわけじゃないから。安心して、ゴン。きっとチャンスがくるって信じてる」
だから早く逃げて。窓から二人を送り出し、穴があいた壁を見ながら部屋を変えてもらおうとため息を吐きつつドアから出る。
廊下を歩いていくと、数メートル先で抜刀の構えをするノブナガを発見する。あれは恐らく、近づけば問答無用で斬られる。そう思い、遠くから声をかける。
「二人ならもう逃げたよ」
「!! マジか……くそォ」
「ちょっと、部屋変えて欲しいんだけど。ベッド運んで」
元はと言えばノブナガが二人を軟禁しようとするからとばっちりを受けたのだ。そう主張すると、ぼやきながらもノブナガはの元いた部屋へ入り、大きなベッドを他の部屋に移した。
「お前は一緒に逃げなかったのか」
「どうやって。コレがあるのに、逃げられるわけないじゃん」
コルトピが模倣した首飾りは、円の役割を果たす。それをつけている限り、どこにいても見つかってしまうのだから。二人と逃げれば、彼らもまた捕まってしまうだろう。
「それに私まで逃げたら、ノブナガ怒られるでしょ」
さすがに可哀想だと思って。そんな風に言ってやれば、彼はうぐ、と言葉に詰まる。図星のようだ。
「とにかく、私はどこへも行かないから安心していいよ」
……今はね。そう心の中でほくそ笑む。チャンスを待つのだ。奴ら――蜘蛛のように。必ず虚を衝いてやる。
『良かった、やっと繋がった』
競売会場で、着信相手を確認せずに電話に出たクラピカは声の主に驚いた。この街へ来てからは一切連絡を取っていなかった仲間からの電話だったのだ。
「ゴン!?」
仕事関係だとばかり思ってつい出てしまったが、まだやらねばならないことが多すぎる。話しはしたいがまた後日改めてと伝えるクラピカに、ゴンは本題だけを簡潔に述べた。
『俺とキルア、旅団に会った』
「!!」
それは、絶対に避けたかった事態のはずだ。だからこそクラピカは、仲間として再会を誓ったはずの彼らと連絡を取らずにいたのだ。どうにか手を引かせたい。その想いから、気づけばらしくもなく声を荒らげていた。
「何を考えてるんだ、お前達は!! 相手がどれだけ危険な連中かわかっているのか!?」
ゴンにかわって答えたのはキルアだった。実際に会って、自分達の想像を遥かに上回る使い手の集まりであること。そのためクラピカに協力して欲しいこと。暫く黙って聞いていたクラピカだったが、有り得ないと言わんばかりにそれらの一切を拒否した。お前達の手を借りるつもりは無いと。
『お前が俺達を仲間とも対等とも思えないなら、どんな手を使ってでも協力してもらうぜ!!』
そしてキルアは、最後にこう続けた。
『お前、が旅団に捕まってること知ってたのかよ』
「……!?」
息を呑む。その事態を、予想しなかったわけじゃない。以前、他の街で会った時の彼女の様子をクラピカは思い返していた。何か伝えようとして、口を閉ざす。そして儚げに微笑むその姿に、気づかぬふりをした。
「……彼女が居たのか、奴らの所に」
『……ああ、いた』
キルアは見たこと全てをクラピカには話さなかった。否、キルア自身どう説明して良いかも分からなかったのだ。彼女がクラピカのことを口にしなかったのも、恐らくは気づいていたからだ。奴らが血眼で探している鎖野郎が、クラピカであることに。
キルアはもういい、とゴンに電話を返した。再び電話を代わったゴンが、静かな口調で言った。
「俺達も、あいつらを止めたいんだ。……それに、を助けたい。は俺達の仲間だから」
「……また、かけ直す」
ゴンの言葉は最もだ。悩んだ末、クラピカはそう絞り出すのがやっとだった。