家庭的な女の子




    「財前ー、早よ屋上行くで」
    「えぇー……俺はめんどいんでいいっすわ」
    「白石が全員や言うとったやろ!」

     緊急ミーティングだとかで、昼休みに屋上で飯を食うことになった。別に本題なんか二、三分で終わるだろうに、謙也先輩はわざわざ俺を教室まで呼びに来た。本気で面倒だが、断った後の方がもっと面倒なので仕方なしに屋上へ向かう。
     屋上には既にレギュラー全員が集まっていて、あの放浪癖のある千歳先輩ですら、楽しそうに弁当を広げていた。

    「お、来たな財前」
    「……別に、来たくて来たわけやないんで」
    「そんな照れなくてもええやないのぉ、ヒ・カ・ル」
    「先輩キモイっす」

     嫌いではないが、相変わらずこのノリは疲れる。しかしまあ来てしまったものは仕方がないので、屋上の隅に座り込んで購買で買ってきた焼きそばパンの封を切る。
     緊急ミーティングとは言ったものの、案の定、今後の練習試合の予定や各自のスケジュールについてで、五分もせずに終わった。その中には部長が狙っているらしいマネージャー候補とか少し私情も挟まれていたが興味もなかったので適当に流しておいた。
     それ以外は通常の昼休みと何ら変わりはない。屋上で騒ぎながら飯を食っていると、不意に遠山が声を上げた。

    「ありゃ、あそこに誰かおるで!」
    「……ん?」

     弁当にはありえないたこ焼きを頬張りながら遠山が指差すそこには、一人で弁当を抱えながら座っている女生徒がいた。

    「さんやん」

     その名前を呼んだのは、謙也先輩だ。放送委員で俺のクラスメイトの、がそこにいた。

    「なんや謙也、知り合いか?」
    「同じ放送委員や。確か、財前と同じクラスやったな」

     話を振られて、皆が俺を見る。そういうの、勘弁して欲しいわ。全く。
     さんはさんで名前を呼ばれて一度会釈をしたきり、気まずそうに俯いてしまっていた。独り寂しく弁当をつつく姿に、興味を示したのか遠山が近づいた。

    「おお! ねーちゃんの弁当、めっちゃ美味そうや!」
    「え? あ、ありがとう……」

     戸惑いながらもそう口にするさんは、照れているのか顔が真っ赤だった。そういや、彼女は赤面症なのだった。先日無神経なことを口にして怒らせてしまったから、こちらとしてもとても気まずい。なんで、こうも間が悪いのだろうか。

    「おーほんまや。お母さん料理上手なんやな」

     冷食とは思えないしっかりとした手作り弁当を見ながら白石部長がそんなことを言って、さんは言いづらそうに「あの、これは、自分で……」と呟いた。

    「え、自分で? ほんま? すごいなぁ」

     それを聞いた謙也先輩や金色先輩が、よってたかって弁当を覗く。「おひとつどうですか?」差し出された弁当へと、それぞれ手が伸びる。
     美味しい、美味い、すごい。思い思い感想を口にして、さんを讃える声が響く。
     その様子を遠巻きに見ていた俺を、謙也さんが呼ぶ。

    「ざーいぜーん。こっち混ざらんの?」
    「そうよぉ、ちゃんのお弁当、とっても美味しいわよ?」

     わいのわいの、寄って集ってやかましい。そういうの面倒やって、最初から言うとるのに。

    「……俺はええです」
    「わ、私のことは気に、しないで下さい……教室に、戻ります」

     俺が部活で上手くいかなくなるとでも思ったのだろうか。いつもこんな感じだが、さんは少し落ち込んだ様子で立ち上がる。

    「……別に、先に居ったんやったらそのまま居ればええやろ。先輩らが騒ぎすぎなだけや」
    「まぁ、ヒカル。妬いてるのかしら? カーワイイ」

     金色先輩は楽しそうに笑いながらさんの手をとった。何にどう妬くのか、意味不明だ。
     第一さんとは一週間ほど関わってもいないし、というか避けられているわけで、突然ばったり居合わせてしまって、気まずさが半端ないだけだ。

    「俺は別に――っ!」

     反論しようと開いた口に何かを突っ込まれて言葉を遮られる。
     それはさんの弁当に入っていたミートボールのようで、ミートボールが刺さっていたピックをつまみながら金色先輩が「どう?」と微笑みながら尋ねてきた。
     ……確かに、美味い。
     咀嚼しながら俺は、手作りの味を噛み締めていた。

    「……悪くはないんとちゃいますか」

     素直じゃないと、皆が笑った。

    to be continued...





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