美人ではないけれど普通に可愛くて、イマドキの女子高生って感じで。すごく好きってわけでもないけど気にはなっている、その程度の距離。俺自身が意識してその距離を保っていればの話だが。
「手嶋、今日青八木くんとお昼一緒じゃないんだね」
「なんだよそれ、別にいつも一緒なわけじゃねーよ?」
「そうなんだ」
俺、普通に教室にいるんだけど。購買でパンを買う予定で財布を取り出しているところに純太の席へと彼女がやってきてそんなことを言う。別に悪口とかではないから声を潜めたりすることもないのだろうけれど、何だか落ち着かない。自分のいる空間で、自分のことを話題にされるのは。
「青八木くんは購買?」
「!! あ、ああ」
突然、俺を振り返り問い掛けてくるクラスメイト。今まで純太と喋っていたのに、と驚く。
「じゃあ私も一緒に行こうかな」
小さめのがま口財布の中身を確認しながら笑う彼女は、一体何の意図があって俺と行動を共にしようなんて思うんだろう。いつも一緒にいる友人たちと食べるならわざわざ俺と行く必要もないだろうに。
「……何で、俺と」
「え、ダメだった?」
「別に……」
素っ気ない言葉しか返せず、心の中で溜息を吐く。
わからないのは、今回が初めてじゃないってことだ。単なる気まぐれなのか、からかっているのか定かではないが、彼女は俺に微笑みかけてくる。こちらが適度な距離を保とうとしているのに、無遠慮に近づいてくる。それがとてつもなく腹が立って仕方がない。慣れていない俺を笑っているみたいに平然としているソイツに。期待したって仕方ないと思いつつも、高揚して、気持ちを抑えきれなくなりそうな自分自身に。
「……」
「あっ、待ってよ青八木くん」
モヤモヤとした気持ちのまま、それを払拭するために無言で教室を出た。
「#name#」
俺が教室を出る瞬間、純太がその名前を呼んだのが聞こえた。
先へ購買に向かった俺の後を追ってきた#name#が隣に並び、声をかけてきた。
「ねぇねぇ、青八木くん」
「?」
「手嶋が好きな紅茶って何?」
「……本人に聞けば、いいんじゃ」
「紅茶買ってきてって頼まれたんだけど、どれが良いのか聞き忘れちゃって」
#name#が小銭を数えながら呟く。俺は小さい溜息の後で、純太がよく買っている自販機の紅茶を告げた。ありがとう、と頬を染めて答える#name#に、ああ、可愛いなと思わざるを得なかった。
胸の奥には靄がかかったまま。
「青八木くん、青八木くん」
「……何だ」
購買に着いても#name#は話し続けていた。こんなに喋るやつだったかと少し引いたが、そもそも俺と比べたら他の全員がお喋りになってしまうような気がした。
見惚れていたと言うことがバレないよう、慌ててそっぽを向く。冷たい言葉で本心を隠して、逸る気持ちをパンを選ぶことで誤魔化した。
「もうすぐ卒業式だね」
「……ああ」
突如、現実に戻される。もうすぐ田所さんたち先輩がいなくなる。俺たちが、最上級生になる。何故だろう、それなのに嬉しそうな目の前のこいつが、ひどく綺麗に見えるのは。
「二年三年はクラス替えがないから、私たちまた同じクラスだね」
「! ……そういえば、そうだな」
「一年のときは喋らなかったけど、その時から一緒だったんだよね」
覚えてる?
#name#が尋ねて、俺はゆっくりと頷いた。意識は全くしていなくて、今言われて改めて「そういえばそうだな」と思ったくらいだ。興味も特に持っていなかった、初めは。相手だって俺に興味なんかないだろうから、それで良かったと思う。二年の後期から、純太と仲良くなったらしい#name#の方から絡んでくるようになるまでは。
純太は割と誰とも喋るし女子とも仲が良い様子が見受けられて、だからどうだと言うわけでもないけれどどことなく羨む気持ちはあったのかもしれない。人と上手く話せるようになりたい、なんて風に。
「三年間同じクラスだなんて、何か嬉しいな」
「……」
社交辞令をわざわざこんな、二人きりの時に言うような子だっただろうか。純太がいる教室を出て、俺について購買に来て。普段#name#が弁当を持ってきていることは、俺だって知っている。そこまで周りを見ていないわけじゃない。
「……俺だって、そう思う」
嬉しい、と素直に口にすることはできなくて。それでも#name#の幸せそうな顔を見れば、俺はこのままでもいいんだと言ってもらえたような気がした。
来年も、よろしく。