四という数字を最近よく見かける。ふとスマホの時間を確認すると四時四十四分だったり、登下校中に隣を追い抜いていく車のナンバーにやたら四が多い。何かの前兆だろうか。いや気のせいだと頭の中では思うけれど、何だか気になって仕方がない。四、という数字は死を連想するだとかで老人ホームとかの部屋番号には九と共に使われないことが多いらしいし、そういった意味ではあまり良い印象を受けない。事故とか、そういうのが起こらなければいいのだが。自転車に乗っている手前、そういうことにはとても敏感だった。
「エンジェルナンバーって知ってる?」
「?」
クラスメイトで恋人でもあるにそのことを話したら、彼女は微笑みながらそう言った。エンジェルナンバー。天使? 聞いたことはなかった。
「いや、しらない」
そうだよねと笑いながらが言う。それから「そんなにロマンチストじゃないよね」なんて言葉が続いた。
「天使が数字を使ってメッセージを伝えてくるって言い伝え」
「メッセージ……」
「私もよく知らないんだけど、調べたら出てくるんじゃないかなあ」
がそう言ったので、スマホを取り出して検索をかけてみる。すぐに出てきた。
「あった」
四のエンジェルナンバーは、
――天使があなたとともにいます。彼らに助け、導き、そして愛と安らぎを求めてください。
らしい。
更に四の連番になると、
――今天使があなたを囲んでいて、その愛と助力があることを保障しています。天使の助けがそばにあるので心配しないこと。
……らしい。
「よくわからないな」
「私もー」
が破顔して、だけど面白いね、と呟く。確かに面白い。天使なんて非現実なものを、こうして数字に当てはめるなんて発想がそもそも不思議だ。しかしこんなメッセージを受けたところで、実在するのかもわからない存在に「心配するな」と言われても土台無理な話だ。
「とにかく、そんなに不吉なものじゃないから変に構えなくてもいいと思うよ」
「……そうだな」
そう思うことにする、ありがとうとに伝える。数字にはこんな見方もあったんだな。
「でも本当に天使がいたら、素敵だよね」
俺のスマホの画面を横から覗き込んで、エンジェルナンバーの記されたページを見つめながらが言う。
「素敵、か」
女の子はよくわからないものに惹かれる。天使とか妖精とか、そんなもの誰も見たことなんてないのに。いるとすれば、幽霊の方が可能性が高いと俺は思う。オカルト嫌いな彼女の前では言えないけれど。
「はじめ君に何かあったら、きっと天使が助けてくれるよ」
俺が冒頭で口にした、事故や不幸への懸念に対してか、多分俺を安心させようとしては言っているんだろうけど、俺としてはもうそんな心配はしていないし、元々ただの偶然だろうくらいにしか思っていなくて。
それに、
「そんなのはどうでもいい」
「え?」
「俺にとっては、愛も安らぎもだから。俺の天使はだから、他は必要ない」
「!!」
思っていることをそのまま口にしたら、何故かは口を噤んで俯いてしまった。表情を伺おうにも垂れた前髪で隠れて見えない。しかし、その髪の隙間から覗く肌は赤みが差していて、
「ほんと、なんでそんなこと当たり前みたいに言えるのかな……ほんと、なんで」
ぶつぶつと独り言のようにが呟く。何か変なこと言ったか? 尋ねると、は首を振って「変じゃないけど、恥ずかしい」と言った。それは俺といて恥ずかしいってこと?
「そ、うじゃないけど。愛とか天使とか、はじめ君何の躊躇いもなく言うんだもの……心臓に悪いよ」
「そうか、悪い。でも今から言う、なんて前置きするのも変だしな」
「言うのは決定なの……」
思っていることを伝えるのはおかしなことだとは思わない。純太以外のやつにはお前はわかりづらい、と言われることが多いから、にだけは不安や誤解を与えたくないから、俺は彼女には偽らないと決めている。その結果、こうして俺の口から飛び出した言葉に彼女が驚いてしまうのも今に始まったことではない。
「は嫌なのか」
「嫌じゃないよ。本当にそう思ってくれてるってわかるから、嬉しい」
顔を上げて、微笑んで見せる。それから小さくあっと声を上げて、良いことを思いついたと言わんばかりに人差し指を立てた。
「じゃあ、はじめ君に何かあったら私が助けてあげるね」
「!」
私ははじめ君の天使だもんね。
そう返されて、俺は、先ほど自分で言ったことなのにひどく狼狽えてしまった。いつも無自覚だったが、言うのと言われるのとではこんなにも違うんだなと思った。まずい、かなり恥ずかしい。いや、照れる。
「……ああ、頼む」
やっとの思いで口にした言葉が少し震えた。
エンジェルナンバー、他の数字も調べてみるか。俺の天使は、他にどんなメッセージをくれるのだろう。