Story

    The coast is clear(やるなら今だ)




    ※ 黒バス夢企画「卒業」様に提出させて頂いた作品です。



    「神頼みなんて許さない」

     そんな非現実、許されるはずがない。以前バスケ部の試合に出られるか危うくなった状況で、黒子君の同中だった緑間君という人が作ったコロコロ鉛筆で、何と彼は高得点を叩き出した。驚きと悔しさがない交ぜになった部員たちは、次のテストから大我にこう告げた。「コロコロ鉛筆使用禁止」と。だが、幾重に勉強しても彼の頭にバスケ以外のことが入る余地は無く、赤点とギリギリの点を重ねた結果。もう後が無くなってしまったのだ。

    「ちゃんと勉強しよう。その為に私も残ってるんだから」

     誰もいない教室で二人きり。普通に考えれば、何か色っぽい想像でもするだろうが、今は全くそんな状況ではない。目の前の筋肉馬鹿に、何としてでも知性を叩き込んでやると意気込んで私はここ数日寝不足で問題集を作ったのだ。
     全ては彼と卒業するため。しかしそれにはまず、大我本人がやる気にならないと始まらない。彼が「何とかなる」なんて楽観思考で居続ける限り、私の努力は全て無駄に終わるだろう。

    「卒業できなかったら別れるから」
    「は!?」
    「そのつもりで、真剣にやって。私だって真剣なんだから」

     私とて何も暇なわけじゃない。再来月には大学受験を控えているのだから、自身の勉強だって始めたいのだが、それ以前に彼が心配で身が入らないのだ。部活動を引退した今、黒子君に迷惑を掛けるわけにもいかない。何より私が、彼と一緒に卒業したいのだ。

    「わかった?」
    「……」
    「解りましたか? 火神大我さん」
    「……ハイ、ガンバリマス」

     ブリザードが噴きつけるようなそんな笑顔で尋ねれば、彼は冷や汗をかきながら確かに頷いた。よろしい。と、私は教科ごとの問題集を彼の前に積み上げる。

    「私が三日三晩、あなたのために寝不足になりながら作成した問題集です」

     あなたのため、という部分を強調して重ねた問題集を手のひらで叩く。いくら鈍い彼でも、私の目の下にうっすらと出来ている隈に気づいているだろう。

    「無駄にさせないでね?」

     圧を掛けながら、大我にノートを開くように促す。繰り返し勉強するには、答えだけをノートに書いていくのが一番効率が良い。
     それから私は、彼の勉強の出来なさに本人ともども打ちひしがれる事となるのだった。





    「なんで……こんなに勉強できないの? 馬鹿なの?」
    「哀れむような目で見んなよ……」

     赤ペンでチェックだらけになったノートを見つめて、溜息と共に顔を覆う。涙は出ないが、泣きたくなるような心境だった。
     そんなの初めから解り切っていたことだろ、なんて彼は言うけれど。だけど私には、彼があまり必死ではないような気がしてならないのだ。

    「バスケしている姿は本当にかっこいいのに……大我からバスケをとったら馬鹿しか残らないわよ」
    「ひっでぇなオイ」

     しかし本当のことなので、否定は出来ないと彼は項垂れる。それでも人間出来ないことはないのだ。今までバスケットへ向けていた熱意をほんの少し勉強へ向けることができれば、きっと変われる。だからこそ私は、諦めずにここにいるのだから。

    「ところで、ひとつ作戦があるんだけどね」
    「あ?」
    「リコ先輩に相談に乗ってもらって、いろいろ作戦を練ったの。大我をやる気にさせる方法について」

     誠凛高校バスケ部の監督である相田リコ先輩と私はとても仲が良く、彼女が卒業した後も何かと話をする機会も多くあった。そんなリコ先輩に大我の留年の危機を告げれば、彼女はトーンを二段階ほど落として「あのバ火神が……!」と吐き捨てたのだった。

    「とりあえず私がこうして勉強を見ているわけだけど」
    「……おう」

     勉強というのは本人のやる気次第だ。それは大我も解っているのだろうが、そのやる気を発揮するのに随分と時間を要してしまっている。

    「助っ人を三人ほど用意しまして」
    「……おう」

     嫌な予感がする、と大我が呟いたのを私は聞き逃さなかった。彼の予感は大方当たっているので、私はにっこりと満面の笑みで人差し指を立てた。

    「まずはひとつ、日向先輩に喝を入れてもらって」
    「……!?」

     ふたつ、

    「それからリコ先輩のプロレス技と、」
    「は!? ちょっ、待……ッ」

     みっつ、

    「最後は黒子君からの罵倒っていうのが……」
    「う……それは、一番キツイぜ……」

     助っ人と言う名の(一部言語的な)暴力団である。
     恐らく、連絡を入れれば忙しい合間を縫ってでも全員喜んで(大我をいじめに)飛んで来てくれるだろう。
     さあどうする? 顔を引き攣らせる大我に笑顔で尋ねたら、彼は冷や汗をだらだらと流しながら首を振った。

    「全部遠慮しとくぜ……」
    「そう。久しぶりに面白いものが見れると思ったのに残念」
    「オイ」

     なら、やることはひとつしかない。携帯電話をチラつかせながら笑みを浮かべる私の本気を垣間見て、大我はぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き毟り、シャーペンを握りなおした。

    「やってやるよ! ぜってー卒業してやる!」
    「普段から普通に勉強してれば卒業くらい出来るはずなんだけどね」

    End.





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