Story

    甘い嘘で誤魔化して





     付き合いが長いのがそんなに偉いわけ?

     唐突にキルアがそんなことを言い出して、私の手を握った。
     ハンター試験の二次試験が終わって三次試験会場へと向かう飛行船の中。休憩がてらテラスでお茶をしようということになって、私はいつも通りクラピカの後について歩いていたのだが、キルアが私を振り返って「一緒に座ろうぜ」と言ってきた。私はまだあまり周囲に馴染めていないので、同郷であり幼なじみでもあるクラピカの傍に居たかったのだけれど、それを面白く思わなかったらしいキルアが冒頭の言葉を放ったのである。
     別に、付き合いが長いのが偉いわけでは勿論ない。しかし私はクラピカが好きでクラピカも私を愛してくれているのだから、相思相愛ならそれって当たり前なんじゃないかなあと思いつつ、キルアに連れられながらクラピカを振り返ると、彼は少しだけ驚いたみたいだったけれど何も言わずにいたから、私はキルアに手を引かれるままにテラスに向かった。
     カフェのように開けたオープンスペースで、係の人に頼めば一通りの飲み物を出してくれる。ゴンとキルアはオレンジジュース、クラピカは緑茶、私は紅茶を頼んだ。レオリオは酒を注文しようとしてクラピカに睨まれ、渋々コーヒーにしていた。

    「それにしても、まさかが試験を通過するなんてな!」
    「レオリオ、それどういう意味?」

     レオリオの言葉に疑問を投げかけたのはゴンだった。六人掛けのボックス席に、ゴン、キルア、私の順で座り、ゴンの向かいにレオリオが、私の向かいにクラピカが座っている。レオリオはにやついた顔で「だってよぉ」と口を開く。

    「クラピカにくっついて試験に来たんだろ? が戦ってるのなんか見たことねぇしなぁ」

     否定は出来ないしするつもりも無い。だけどそれってかなり心外なわけで。

    「クルタの女を甘く見てたら怪我しますよ。戦えるのは男の人だけではないのですから」

     腕を組みながら軽く睨みつけると、レオリオは少したじろいだ。その後に、私が「クラピカにだって負けないもの」と発言すると、それに反応したのは他でもない彼だった。

    「それこそ心外だな。私がお前に負けると言うのか? 馬鹿馬鹿しい」
    「……なに怒ってるの?」

     私は小さく、故郷の言語で呟いた。
     こんなこと、いつも言っているのに。クルタの女は強い。それはクラピカのお母さんも私のお母さんも例外ではなかったし、その血を受け継いでいる私だってそうだ。こう見えて負けず嫌いな私のことを、一番よく知っているのはクラピカのはずなのに。眉を寄せて、キルアの隣に座る私を見る。

    「……戻る」
    「あ、待ってよ!」

     口をへの字にしてクラピカがテラスを出て行ってしまうので、私は慌てて彼を追いかけた。

    「ねぇ、何を怒っているの?」
    「怒ってなんていない」

     クルタの言語で私が問いかけると、つられてか頭に血が上っているのか、クラピカも同じ言語で返してきた。

    「怒ってるじゃない。あんな風に出て来てしまったら、みんな困ってしまうわ」
    「俺は悪くない。大体お前が……っ!」

     どうやら後者だったらしいクラピカが、私につかみかかりそうな勢いで口にして、その後の言葉を呑み込んだ。私が、何なの? 私が悪いの? どこが、何が。はっきりとした理由がわからないまま責められるなんて納得いかないから、私は逆にクラピカに詰め寄った。

    「私が悪いならどこが悪いって言ってよ! 私はクラピカみたいに頭が良くないんだから、教えてくれなきゃわかんないよ……っ」

     泣きそうになって、言葉尻が震えた。私の表情を見たクラピカは、今までの怖い顔から一変し、途端に狼狽えはじめた。

    「っ、い、いや……っ! 泣くなよ、」
    「まだ、泣いて、ない」
    「これからも泣くな」

     困ったように、だけど私を安心させるようにクラピカが笑みを浮かべる。その表情は、私が大好きないつもの彼の顔。

    「……怒ってない?」
    「怒ってないよ。……ただの醜い嫉妬だ」

     そう呟いたクラピカは、照れくさそうに視線を逸らした。
     キルアに誘われたとき、私が断らずになすがままになっていたのが面白くなかったらしい。けれどそれは、私も同じこと。

    「だってクラピカが何も言ってくれないから」
    「そんなの俺じゃないだろ」
    「……もう」

     ゴン達の前では偉ぶっているクラピカも、こうして私の前では年相応に怒ったりヤキモチも焼く。だから私はクラピカが好きだし、彼の後についていくのだ。

    「空気悪くしてしまったから、ちゃんと皆に謝って下さいね」
    「その必要はない」

     共通言語に戻したところで変わらない彼の態度に、おかしくなって私は笑った。

    End.





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